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WITHIN TEMPTATION
HYDRA
88
ハイドラ (2014)

先行シングルとして発表された#4「Paradise」は、ファン層も大きく被っているであろう元NIGHTWISHのVoターヤとのコラボレーションということで、「豪華」ではありつつも「順当」だと思えた。しかし、その後発表された本作のコラボ・ゲストは元KILLSWITCH ENGAGEのハワード・ジョーンズ、SOUL ASYLUMのデイヴ・パーナー、そしてアメリカ西海岸のラッパーであるXZIBITと、予想外を通り越して不安になる顔ぶれだった(話題作りとしても、旬とは言い難い人選…)。しかし、彼らの前ではそんな不安は無用だった。たしかに初期のシンフォニック・ゴシック・メタル・バンドとしての姿からは多少変容している。しかし、そんなスタイルの変化に不満を抱かせないほど「曲がいい」のだ。前作もイメージの変化に不安を覚えたものの、楽曲の良さにねじ伏せられたが、本作も全く同様だ。ハワードをゲストに迎えた#2はアグレッシヴにカッコいいし、XZIBITをフィーチュアした#3もラップが効果的なフックになっている。デイヴ・パーナーとデュエットしたバラードの#10もメジャー感たっぷりである。むろんそれ以外の曲も素晴らしい。欧州のメタル・バンドは優れたメロディ・センスを持ちながら、それを今一つ大衆性に結び付けられないケースが多いが、このバンドは完璧な形でそれを実現することに成功している。このスケールはもはや「欧州のトップ・バンド」に収まることすら難しい。

WITHIN TEMPTATION
THE UNFORGIVING
89

ジ・アンフォーギヴィング (2011)


Drを交代し、シャロン(Vo)の第2子出産を経て発表された通算5作目のフル・アルバムは、『THE UNFORGIVING』という、アルバムと同名のコミックを制作し、本作に収められた12曲は全てそのストーリーに沿って制作されたコンセプト・アルバムとなっている。その海外コミック風のアートワークや、雑誌インタビューにおける明るい雰囲気の写真に違和感を覚え、好ましからざる方向に変化しているのではないかと危惧しながら聴いてみると…イントロSEの#1に続く#2のサビでハートを撃ち抜かれました。確かに変化している。前作の時点でも感じられたモダンな洗練がドラスティックに押し進められ、従来の彼らのイメージや「ゴシック・メタル」というワードから想起される重厚かつ荘厳なムードは大きく後退し、シンフォ・アレンジも控え目になったそのサウンドは時にポップにさえ感じられる。そのことをして本作を批判する向きもあろうが、楽曲の、メロディの素晴らしさは何ら変わらない、いやむしろキャッチーさを増してより耳に残るものになっている。個人的には大衆的な音楽も大好きなので、この路線も許容範囲、どころか本作で一番ポップなディスコティック・ナンバー#8がベスト・トラック。洗練による違和感を「楽曲の良さ」という、あまりにも真っ当な方法論で正面からねじ伏せる強力なアルバムだ。

WITHIN TEMPTATION
THE HEART OF EVERYTHING
86
ザ・ハート・オヴ・エヴリシング (2007)

「Roadrunner」からのワールドワイド・リリース第2作目となる通算4枚目のフル・アルバム。前作で完成を見たシンフォニック・ゴシック路線を踏襲しつつ、大衆化を進めた作品となっている。大衆化といってもポップになったというわけではなく、モダンというか、ぶっちゃけて言えば、EVANESCENCE的な要素が強まったという印象。それは、アメリカのダークなハードコア・メタル・バンド、LIFE OF AGONYのキース・カプート(Vo)がゲスト参加してシャロン・デン・アデル(Vo)とデュエットを聴かせる#2「What Have You Done」に顕著。これまでなかったリズミックなヘヴィ・リフと、やや大仰さを抑えたシンフォニック・アレンジによって、ひたすら美しく静的な印象だった前作に比べ、動的なイメージを与える作品となっている。とはいえ、メロディの美しさは相変わらず絶品で、効果的に使用されているシンフォニック・アレンジは、RHAPSODYのそれがチープに思えてしまうほど上質。これまでの彼らの作品を気に入った向きであれば必聴だし、EVENESCENCEあたりから女性Voによるゴシック・メタルに興味を持った初心者への入門盤としても最適だろう。

WITHIN TEMPTATION
THE SILENT FORCE
88
ザ・サイレント・フォース (2004)

前作の大成功によって、HR/HMの枠を超え名実ともに「オランダを代表するバンド」へと躍進したWITHIN TEMPTATIONのサード・アルバム。本作はメタル・インディー大手「Roadrunner」からワールド・ワイドのリリースとなった(日本盤のリリースは欧州に1年近く遅れることになったが…)。とにかく再生ボタンを押すやいなや流れ出してくる荘厳なクワイアとオーケストラサウンドのクオリティ感に鳥肌。前作の時点でも充分にクオリティの高いサウンドだったが、今回はそれを軽く上回る圧倒的に壮麗なアレンジと極上のサウンドが、音楽のクオリティの高さを裏づけ、レコード会社の期待の高さと、制作にかけられた予算の高さ(笑)を否応なしに感じさせる。前作リリース後、全世界で大ブレイクしたEVENESCENCEの影響か、「ヒーリング・メタル」とでも呼びたくなる暖かな作風だった前作に比べ、暗く悲劇的な曲調が増え、ある意味ルーツである「ゴシック」的なムードへ回帰した印象。個人的には前作の路線の方がメジャー感と個性があってよかったのではないかとも思うが、これはこれで素晴らしいし、クオリティに申し分はない。シャロン・デン・アデル(Vo)の歌唱も良い意味で余裕を感じさせるようになり、音楽のスケール感向上に貢献している。NIGHTWISHほどオペラオペラしていない分、このバンドの方が間口広いかもね。楽曲も大仰ではあるが複雑にならず、コンパクトにまとまっているのもポイント高い。僕は速くて勇壮な漢らしいメタルが好きなのでこの点数ですが、音楽的クオリティは満点に近い。

WITHIN TEMPTATION
MOTHER EARTH
87
マザー・アース (2002)

いったい何事が起きたのか、という驚異の進化を遂げたセカンド・アルバム。前作「ENTER」の時点では、母国の先輩THE GATHERINGフォロワーの女性Voゴシック・メタルのひとつ、という程度の認識であったが、デス声を捨てた本作で聴ける音楽はもはやゴシック、というワードでは語りきれない雄大なスケール感を醸し出している。#1「Mother Earth」のイントロのフィドル風の音色が奏でるケルト風の旋律がすでに名盤の予感を感じさせるが、その随所に現れるケルト風のメロディと、本作より加入したKeyによる荘厳なオーケストレーションが、汎欧州的なスケール感を生み出している。#10「In Perfect Harmony」なんて、一般人が聴いたら絶対にメタル・バンドの曲だとは信じない、清冽さをたたえた牧歌的な曲だが、この曲のみならず、他の曲もヘヴィなギターを抜いたらそのまま極上のヨーロピアン・ポップスとして成立しそうな楽曲クオリティ。いや、このヘヴィなギターが入ってなお「癒し」すら感じさせてしまうのだから尋常ではない。本作は母国オランダでは最高位2位、1年以上に渡ってヒット・チャートのトップ10にコンスタントにランクインしてくるという文字通りのモンスター・ヒット・アルバムとなった(ドイツでも最高位7位)。実際音楽のレベルは壮絶に高いが、正直僕がメタルに求めているのはこんなメジャー感に満ちた癒しではなかったりするので、このサイトでの点数はこの程度かな。


WITHIN TEMPTATION
ENTER
80
エンター (1997)

オランダ出身のゴシック・メタル・バンド。VOYAGEというバンドでアルバム1枚リリース経験のあるロバート・ウエスターホルト(Vo/G)を中心に96年夏に結成。Voのシャロン・デン・アデルはロバートのガールフレンドである。当時既に欧州ではゴシック・メタルの人気が非常に高く、特に女声Voをフィーチュアしたゴシック・メタル・バンドといえばオランダではTHE GATHERINGという成功を収めた先駆者がいたこともあって、彼らのデモ・テープも早くから話題となり、レーベル(DSFA Records)との契約も割とすんなり獲得できたようだ。レーベルメイトのデス・メタル・バンドORPHANEGEのサポートを得て制作された本作は、まさにそのTHE GATHERINGやTHEATER OF TRAGEDYといった先達を思わせる典型的なゴシック・メタル・サウンドで、ヘヴィなリフとデス声は入っているものの、メインはあくまでもシャロンの歌であり、ピアノを中心としたクラシカルなKeyがサウンドを美しく彩る、同系統のバンドの中でもかなり聴き易い部類の音である。この時点では無個性なフォロワー的サウンドではあるものの、ソングライティングの水準は既に高く、デス声を捨て大ブレイクした次作以降のファンが遡って聴いたとしても大きく裏切られることはないであろう質は備わっている。シャロンの歌もまだまだ未熟ながら、独特の儚さを醸し出しており、心惹かれるものがある。

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